生殖補助治療について

体外受精や顕微授精の前に知っておきたいこと

不妊治療の成否を左右する2大ポイントが、女性の年齢(≒卵子の質)と精子の質です。
私たちの治療の進めかた(ステップアップの基準)は、大まかに以下の通りです。

女性年齢が35歳以下で精液所見が正常の場合は、

  1. タイミング性交 6~12回
  2. 排卵誘発+人工授精 5~6回
  3. 体外受精・顕微授精を試みます。

女性年齢が36~37歳で精液所見が正常の場合

  1. タイミング性交 3~6回
  2. 排卵誘発+人工授精 4~5回
  3. 体外受精・顕微授精を試みます。

女性年齢が38歳以上あるいは軽度の男性不妊の場合

  1. 排卵誘発+人工授精 3~4回
  2. 体外受精・顕微授精を試みます。

女性年齢が40歳以上の場合

  1. 排卵誘発+人工授精 2~3回
  2. 体外受精・顕微授精を試みます。

男性不妊が高度な場合

  1. 最初から体外受精や顕微授精を行います。

卵巣低反応 poor ovarian response(ボローニャ基準)

体外受精や顕微授精では、採卵するために排卵誘発剤で卵巣刺激しますが、
このとき大事なのが

  1. 女性の年齢
    40歳以上あるいは、リスク要因(染色体・遺伝子異常、卵巣手術既往、癌治療既往)がある
  2. 超音波での卵胞数
    FSH/hMG 150単位以上を用いて卵巣刺激した周期で、採卵数が3個以下
  3. 卵巣予備能マーカーAMHの値
    卵巣予備能の低下:卵胞数<5~7個あるいはAMH<0.5~1.1 ng/mLの場合は、卵巣刺激にうまく反応せず(poor ovarian response)、思うように採卵できないことがあります。

私たちは卵巣の状態に合わせて、PPOS法GnRHa(ショート)法という2つの卵巣刺激を使い分けています。

ARTの卵巣刺激法① PPOS法

卵巣機能がさほど悪くなければ、PPOS(Progestin-primed Ovarian Stimulation)法で卵巣刺激を試みます。
これは

  1. 生理2日目からプロゲスチン剤を内服
  2. 生理3日目からFSH製剤を毎日自己皮下注射
  3. 採卵の35時間前にGnRHアゴニストをスプレー
  4. 採卵して得られた良好胚を凍結保存する方法

です。

PPOS法は、これまで主流だったGnRHアンタゴニスト法と比べて、有効性と安全性が同じで、通院回数は少ないので、最終的にコストが安く済みます。

私たちの施設では現在、卵巣刺激の9割以上がPPOS法です。

ARTの卵巣刺激法 PPOS法 福井大学医学部附属病院/高度生殖医療センター

ARTの卵巣刺激法② GnRHアゴニスト (ショート) 法

40歳以上や卵巣予備能低下など、卵巣の低反応が予想される場合は、GnRHアゴニストのショート法を用いて、強力な卵巣刺激を試みています。
これは

  1. 生理2日目からGnRHアゴニストをスプレー
  2. 生理3日目から毎日通院しhMG製剤を筋肉注射
  3. 採卵の35時間前にhCG製剤を筋肉注射
  4. 採卵して得られた良好胚を胚凍結保存する方法

です。

これだけ強力に刺激しても1~2個しか採卵できない場合は、次回からクロミフェンをベースにしたマイルド刺激法へ切り替えることも多いです。

ARTの卵巣刺激法 GnRHアゴニスト (ショート) 法 福井大学医学部附属病院/高度生殖医療センター

体外受精と顕微授精のどちらを選ぶか

体外受精と顕微授精のどちらを選ぶかは、過去の治療歴(体外受精の受精率など)や、採卵当日の精子の状態により、柔軟に判断・対応しています。

私たちは、ピエゾ顕微授精システムを用いて、微細なパルス振動で卵子を穿刺し、精子を静かに注入することで、卵子へのストレスをなるべく減らすよう工夫しています。

すべての受精卵(胚)を、タイムラプス胚培養器で培養・観察して、質の高い胚を選別するよう心がけています。

ちなみに私たちの施設では、体外受精の採卵1回あたりの妊娠率が34%、出産率は26%です。妊娠あたりの流産率は24%です。

顕微授精の採卵1回あたりの妊娠率が23%、出産率は18%です。 妊娠あたりの流産率は22%です。

年齢とともに、妊娠率・出産率が低下し、流産率は上昇しますので、適切なタイミングでステップアップするよう心がけています。

ピエゾ顕微授精システム

卵胞発育について 福井大学医学部附属病院/高度生殖医療センター

微細なパルス振動で卵子を穿刺し
精子を静かに注入することで
卵子へのストレスを減らす

タイムラプス胚培養器

卵胞発育について 福井大学医学部附属病院/高度生殖医療センター

受精卵の発育をタイムラプス観察しながら
質の高い受精卵を選別する

高度な男性不妊

高度な男性不妊は、生殖医療専門医である泌尿器科医師が診療に当たっています。
顕微鏡下に精巣内の精子を採取するMD-TESEにも対応していますので、是非ご相談ください。

ただし、MD-TESEによる精子の回収率は3割で、残りの7割は精子を得ることができません。

精子の有無は手術してみないと分かりませんし、たまたま精子が得られても必ず妊娠できるとは限りません。

男性不妊には克服すべき課題がいくつも残されています。

顕微鏡下精巣内精子採取術(MD-TESE)

顕微鏡下精巣内精子採取術(MD-TESE) 福井大学医学部附属病院/高度生殖医療センター

精子回収率 30%