不妊症とは?
「不妊症」とは、自然に妊娠する可能性が低く、なんらかの治療が必要な状態をいいます。
日本では、健康な男女が妊娠を希望し、避妊をせずに性交(セックス)を1年間繰り返しても妊娠しない場合、不妊症と診断しています。
男性の精液・精子の異常や性交・射精の障害、女性の月経不順・排卵障害や卵巣予備能の低下(高齢)、子宮内膜症・子宮筋腫といった背景がある場合は、1年間を待たずに、速やかに治療を開始する必要があります。
アメリカでは、35歳以上の女性で、不妊期間が半年間を越えたら、検査をスタートします。
厚生労働省は、不妊症かも…と悩んでいる・悩んだことがある夫婦が35%(3組に1組)、実際に不妊治療を受けている・受けたことがある夫婦が18%(5.5組に1組)と報告しています(不妊治療と仕事との両立サポートハンドブック)。
私たちの調査では、福井県内で1,000人近い女性が、不妊治療を受けています(令和2年度 福井県不妊治療提供体制調査事業)。
不妊治療には、一般不妊治療(①タイミング性交・②人工授精)と生殖補助医療(③体外受精・④顕微授精・⑤胚移植)があります。
日本では、2019年に生まれた赤ちゃん865,239人のうち、生殖補助医療によって生まれた赤ちゃんが60,598人(14人に1人)でした。
一般不妊治療でも同じくらいの赤ちゃんが生まれると予想されるので、日本では不妊治療によって10万人以上の赤ちゃんが生まれていることになります。
2022年4月から、治療効果が証明された(=エビデンスが確立した)不妊治療に対して、保険診療が適用されることになりました。
不妊治療と仕事の両立もクローズアップされています。
ツラいことも多い不妊治療ですが、あなたの治療を応援してくる人が大勢います。
~タイミング性交や人工授精(AIH)の前に知っておきたいこと~
(1)卵子と精子と受精タイミングについて
ヒトの卵管内における、「精子の生存期間は48~72時間」、「卵子の生存期間は8~12時間」と言われています。
月経周期で、性交による妊娠の確率が最も高いのは、排卵の2日前です。
人工授精(AIH)による妊娠も、排卵2日前から排卵当日の3日間に集中しています。
つまり、必ずしも排卵にドンピシャリのタイミングでなくて良いので、排卵の1~2日前に、精子が確実に入ることが重要です。
尿中LHサージが陰性の状態で、hCG製剤を投与すると、実際に排卵するのは36時間以降とされています。したがって、hCGの注射で人工的にLHサージを誘導した、当日あるいは翌日が、性交やAIHのベストタイミングと言えそうです。
精子の生存期間:48~72時間
卵子の生存期間:8~12時間
尿中LHサージ(ー)
↓
hCG製剤を注射
↓
36時間以降に排卵
↓
hCG注射の当日~翌日が性交
人工授精のタイミング
(2)卵胞発育について
卵胞の発育ペースは1日1.5mm、排卵近くになると1日2mmで、排卵誘発剤を使うとこのペースが少し早まります。
「妊娠率が最も高い卵胞径」というのが分かっていて、自然周期で20~24mm、クロミフェンの内服周期で23~28mm、FSG/hMG製剤の注射やレトロゾール(アロマターゼ阻害剤)の内服周期で18~20mmと言われています。
このとき子宮内膜は6mm以上が望ましく、5mm以下だと妊娠率はガクッと落ちますので、hCG注射のタイミングが早すぎないことも大事です。
排卵誘発剤を使うと、少し早まる
妊娠率が最も高い卵胞径
自然周期 | 20~24 mm |
クロミフェン内服 | 23~28 mm |
FSH/hMG製剤注射 レトロゾール内服 |
18~20 mm |
Stadmauer 2014 Ultrasound Imaging in Reproductive Medicine
増殖期内膜は 6 mm以上が望ましい
5 mm以下だと妊娠率が著しく低い
(3)経口排卵誘発薬(クロミフェンとレトロゾール)について
排卵誘発の第1選択薬であるクロミフェンは、排卵率が75%と高い割に、妊娠率は35%と思ったほど高くありません。
そこで、クロミフェンでなかなか妊娠しなければ、レトロゾール(アロマターゼ阻害剤)に切り替えると良いかもしれません。
レトロゾールはこれまで自費扱いでしたが、2022年4月から多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)や原因不明不妊へ、保険適用できるようになりました。
私たちの施設でも、最近の妊娠・出産例は、クロミフェンよりレトロゾールの方が多くなっています。
レトロゾールは、クロミフェンと違って子宮内膜が薄くならないので、性交やAIHのタイミングは少し早めが良い、と言われています。
クロミフェンやレトロゾールへの反応が今一つの場合は、hMG製剤を追加していくことも可能です。
(4)精液検査について
世界保健機構(WHO)が定める精液検査の基準値は、精液量 1.5mL以上、精子濃度 1,500万/mL以上、運動率40%以上です。
精子の状態はバラつきが大きいとよく言われますが、2回続けてこの基準値を下回るようであれば、早めに人工授精(AIH)を考えた方が良さそうです。
人工授精は、精液中の運動精子をできるだけ集めて、排卵直前に子宮の奥へ注入する方法です。
ちなみに、私たちの人工授精1回あたりの妊娠率が14%、出産率は12%です。
精液検査で、運動率 20%、運動精子濃度 500万/mLを下まわる場合は、顕微授精が選択肢になります。
精液検査の基準値(WHO)
精液量 | 1.5 mL以上 |
精子濃度 | 1,500万/mL以上 |
運動率 | 40%以上 |
精子は日によってバラつきが大きい…
基準値を2回続けて下回る場合は
運動精子を子宮内へ 人工授精 AIH
運動率<20%、運動精子濃度<500万/mLだと
顕微授精 ICSI が必要