一般不妊治療について

~排卵誘発剤を使う前に知っておきたいこと~

排卵周期と排卵障害の基礎

ヒトの排卵周期は、下記の図の通り、「視床下部~下垂体~卵巣のネットワーク」によって、精密に制御されています。

このシステムのどこかで障害が起こると、卵胞発育不全や排卵障害を来たし、不妊症に陥ります。

WHOは、卵胞発育不全や排卵障害の原因を、クラス1から3に分類しています。

排卵周期と排卵障害の基礎 福井大学医学部附属病院/高度生殖医療センター

 

排卵障害のWHO分類

クラス 1(10~15%)
視床下部性排卵障害
体重減少・過度な運動・ストレス

 

クラス 2(70~80%)
多嚢胞性卵巣症候群 PCOS

 

クラス 3(5~10%)
早発卵巣不全 POI

排卵障害クラス1について

WHO のクラス1(FSH低値、エストロゲン低値)は、視床下部~下垂体系の機能不全に起因する、高度な排卵障害と重度の無月経が特徴で、排卵障害の10~15%を占めています。

典型的なのは、極端なダイエットや摂食障害、過度なスポーツ、精神的ストレスをきっかけに、視床下部のGnRHパルス分泌や下垂体のFSH・LH分泌が障害され、無排卵に陥るケースです。

低FSH(<4 mIU/mL)・低LH(<2 mIU/mL)と低エストロゲン(<20~30 pg/mL)が特徴で、排卵誘発にはFSHとLHの両方の成分を含むhMG製剤の注射が有効です。

一方で、視床下部に働きかけるクロミフェンやレトロゾールの内服は、あまり効果が期待できません。

排卵障害 クラス1(FSH低値, E2低値)

【原因】
視床下部~下垂体の機能不全
【症状】
高度な排卵障害重度の無月経
【頻度】
排卵障害の10~15%
【検査】
低FSH(<4 mIU/mL)
低LH(<2 mIU/mL)
低E2(<20~30 pg/mL)
【治療】
FSHとLHの成分を含むhMG製剤の注射が有効
(クロミフェン・レトロゾールは効果が乏しい)
排卵障害クラス1について 福井大学医学部附属病院/高度生殖医療センター

排卵障害クラス2とPCOS(多嚢胞性卵巣症候群)について

WHOのクラス2(FSH正常、エストロゲン正常)は、視床下部~下垂体~卵巣系のバランスの乱れに起因する、比較的軽度の排卵障害と無月経が特徴で、排卵障害の70~80%を占めています。

クラス2の大半が多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)とされていますが、PCOSの表現型やホルモン異常は人種によって異なります。

ちなみに日本では、(1) 月経周期の異常、(2) 超音波検査で両側卵巣に多数の小卵胞、(3) 肥満型で血中男性ホルモン高値あるいは非肥満型でLH高値、の3条件を満たすとPCOSと診断されます。

欧米では肥満型のPCOSが主流ですが、日本では非肥満型のPCOSが過半数を占めます。

治療は、まずエストロゲン・プロゲスチン補充療法でLHレベルを下げておくと、その後のクロミフェンやレトロゾールによる排卵誘発がスムースに行えます。

排卵障害が高度で、クロミフェンやレトロゾールが効かない場合は、FSH製剤を少量ずつ自己注射する方法もあります。

排卵障害 クラス2(FSH正常, E2正常)

【原因】
多嚢胞性卵巣症候群 PCOS
【症状】
比較的軽度の排卵障害無月経
【頻度】
排卵障害の70~80%
【治療】
① まずエストロゲン・プロゲスチン補充でLHを下げる
② クロミフェンやレトロゾールで排卵誘発をトライ
③ 低用量のFSH製剤を自己皮下注射する方法も有効
排卵障害クラス2とPCOS(多嚢胞性卵巣症候群)について 福井大学医学部附属病院/高度生殖医療センター
  肥満型
PCOS
非肥満型
PCOS
症状 月経異常(無月経・希発月経・無排卵周期症)
卵巣の
所見
多嚢胞卵巣(両側卵巣に10個以上の小卵胞)
検査
データ
男性ホルモン高値 LH高値(≧7 mIU/mL)
人種差 欧米で多い 東アジアで多い

非肥満型PCOSの病態メカニズム

なお、私たちは「発育途中の卵胞が高濃度のLHに曝されると、顆粒膜細胞のFSH受容体や卵子のGDF9が発現抑制されてしまい、その後の卵胞発育を停止してしまう」という非肥満型PCOSの病態メカニズムを報告しています。

非肥満型PCOSの病態メカニズム 福井大学医学部附属病院/高度生殖医療センター

排卵障害 クラス3(FSH高値, E2低値)について

WHO のクラス3(FSH高値、エストロゲン低値)は、卵巣機能不全に起因する、極めて高度な排卵障害と無月経が特徴で、排卵障害の5~10%を占めています。

一般的に、40歳未満で無月経が6か月以上続き、FSH>40 mIU/mL、エストラジオール<20 pg/mLの場合、早発卵巣不全と診断されます。

早発卵巣不全の70%は原因不明で、残念ながら排卵誘発が奏功することはほとんどありません。

排卵障害 クラス3(FSH高値, E2低値)

【原因】
原因不明の卵巣機能不全
【症状】
極めて高度な排卵障害と無月経
【頻度】
排卵障害の5~10%
【早発卵巣不全の診断基準】
40歳未満
・続発性無月経が6ヵ月以上続く
FSH高値(>40 mIU/mL)
E2低値(<20 pg/mL)
【治療】
排卵誘発が奏功することはほとんどない

排卵障害 クラス3(FSH高値, E2低値)について 福井大学医学部附属病院/高度生殖医療センター