不育症・出産リスク・治療終結・妊よう性温存・プレコンセプションケア
生殖医療というと、体外受精や顕微授精が注目されがちですが、近年は妊娠・出産するための手術である「生殖外科手術」や、流産を繰り返す「不育症」、若いがん患者さんの「妊よう性温存療法」、将来の妊娠に備える「プレコンセプションケア」など、さまざまな分野を包括するようになっています。
せっかく妊娠したのに流産や死産を繰り返す、不育症という病気があります。
不育症の原因には、子宮の形態異常、抗リン脂質抗体症候群、甲状腺ホルモンの異常、夫婦の染色体異常が挙げられています。
不育症の原因とその治療 | |
子宮の形態異常 | 子宮鏡下子宮中隔切除術 |
抗リン脂質抗体症候群 | アスピリン&ヘパリン療法 |
甲状腺ホルモンの異常 | 甲状腺の治療 |
夫婦の染色体異常 | *胚の着床前診断(PGT-SR) |
流産した胎児/絨毛が染色体異常 | *胚の着床前診断(PGT-A) |
*胚の着床前診断(PGT-A・PGT-SR)は、県内の連携施設へお願いしています。
アスピリンとヘパリンで、
子宮局所の血流を改善
一方で、不育症には未知の部分も多く、精密検査をしても半数以上が原因不明です。
最新の「不育症管理に関する提言2021」では、①流産した検体の絨毛染色体検査を行う、②アスピリン内服にヘパリンCa自己皮下注射をどう組み合わせるか、の2つを重視しています。
私たちは、もともとアスピリンとヘパリンの治療を積極的に行っていますし、保険診療で絨毛染色体検査が受けられるよう準備中です。
生殖補助医療による妊娠の出産リスク
私たちは、生殖補助医療による妊娠の出産リスクにも注意しています。
生殖補助医療で妊娠が成立すると、お母さんの妊娠高血圧症候群・前置胎盤・早産、赤ちゃんの低体重・病気・死亡のリスクが高まります。
母体のリスク | 児のリスク |
妊娠高血圧症候群↑ | 低出生体重児↑ |
前置胎盤↑ | 新生児有病率↑ |
早産↑ | 新生児死亡率↑ |
Sutcliffe 2007 Lancet, Qin 2016 Fertil Steril
また、流産や出産後に胎盤の成分が子宮内に遺残する、昔の胎盤ポリープ、今でいうretained products of conception(RPOC)が発生しやすく、大量出血のリスクも高まります。
タイミング性交やAIHによる妊娠はローリスクですが、生殖補助医療による妊娠はかなりハイリスクであり、特に慎重な産科管理が必要です。
治療終結を見据えたセカンド・オピニオン
私たちの施設では、不妊治療を受けた女性の、3分の2が出産に成功しています。
一方で、残り3分の1の女性は、どんなに頑張っても、出産できていません。
残念ですが、不妊治療には限界があるのも事実です。
私たちは、他院で治療中の方でも、治療終結を見据えたセカンド・オピニオンをお引き受けしています。
治療終結はとてもツラいことですが、いつかは決断しないといけません。
私たちの役割は、カウンセリングというより、これまでの治療経過を振り返り、現状を客観的に評価してうえで、これまでの治療を労い、終結の決断をそっと後押ししてあげること、と考えています。
里親制度や特別養子縁組があることも、早いうちから知っていただきたいと思います。
福井県家庭養護推進ネットワーク フォスタリング事業部 「福さと」
若いがん患者の妊よう性温存
若いがん患者さんの、妊よう性(妊娠できる能力)をできるだけ温存するために、福井県とともに「がん患者子宝応援事業」を行っています。
県内5つのがん診療拠点病院を結んで、がん治療の前に精子や卵子、胚の凍結保存が必要な若い患者さんがいたら、すぐに連絡をもらって対応しています。
がん治療の前に、精子・卵子・胚を凍結保存
福井県がん患者 生殖医療ネットワーク
妊活カフェ Hello Baby ~いつかパパ・ママになるために~
私たちは、がん患者さんへの応援事業を通じて、若い世代の男女にも、妊娠・出産について、もっと知識を深めてもらう必要性を強く感じました。
そこで私たちは、妊娠・出産に関する若者向けの動画「妊活カフェ Hello Baby ~いつかパパ・ママになるために~」を、YouTubeにアップロードしています。
この動画は、
- ①はじめに
- ②妊娠のしくみと不妊症
- ③妊娠前にできること ~プレコンセプションケア~
- ④妊娠のいま
- ⑤出産のいま
- ⑥子宮頸癌になっても妊娠・出産できますか?
- ⑦がんになっても妊娠・出産できますか?
の7つのパートで構成されています。
これらの資料も活用しながら、県内の中学校・高校で、妊娠・出産に関する出前授業も計画しています。
①はじめに
②妊娠のしくみと不妊症
③妊娠前にできること ~プレコンセプションケア~
④妊娠のいま
⑤出産のいま
⑥子宮頸癌になっても妊娠・出産できますか?
⑦がんになっても妊娠・出産できますか?